2026年8月16日放送のTBS系『サンデーモーニング』で、歌手の加藤登紀子さんが北方領土について「現在、北方領土はロシアが領有されているもの」と発言し、SNSなどで批判が広がりました。

番組では、ロシアのプーチン大統領が8月13日に北方領土の択捉島を初めて訪問したニュースを取り上げていました。その中で意見を求められた加藤さんは、北方領土について調べたと前置きしたうえで「ロシアが領有されているもの」と発言。その後、「現実に求められているのは領土ではなくて平和」と自身の考えを述べています。

ただ、日本政府は北方四島について「我が国固有の領土」であり、現在もロシアによる不法占拠が続いているとの立場です。「ロシアが領有している」と「ロシアが実効支配している」では意味が異なります。

そのため番組では発言直後、駒田健吾アナウンサーが「正しくはロシアが実効支配しているという形」と訂正しました。

それでもSNSでは「その場の訂正だけでいいのか」「番組として改めて謝罪すべきではないか」といった声が上がっています。

今回の件は、加藤さん個人の失言だけで考えるより、報道番組に出演するコメンテーターの役割と、それを生放送で扱うテレビ局の責任について考える材料になるように思います。

「領有」と「実効支配」は同じではない

まず、今回の発言は単なる言葉尻の問題として扱うべきではないでしょう。

「領有」と「実効支配」では、領土問題を語るうえで意味が大きく異なります。

日本政府は北方四島について「我が国固有の領土」との立場を取り、ロシアによる不法占拠が続いているとしています。

その状況について「ロシアが実効支配している」と説明するのであれば、現状を示す表現になります。

一方、「ロシアが領有している」と言ってしまえば、ロシア側に領有権があると受け取られかねません。

しかも今回は、北方領土問題についてニュースを伝える報道番組です。

加藤さん自身がどのような考えを持つかは自由ですが、前提となる事実関係と個人の見解は分けて伝える必要があります。

この点で、駒田アナウンサーがその場で訂正した判断は妥当だったと思います。

「すぐ訂正したこと」は評価してもいいのではないか

今回の放送に対する批判を見ていて少し気になることもあります。

発言は生放送中に訂正されています。

出演者が誤った表現を使い、それに気づいたアナウンサーが直後に「正しくは実効支配」と伝えた。報道番組として必要な対応の一つは、その場で行われています。

生放送では、出演者が何を話すかを完全にコントロールすることはできません。

どれだけ事前に打ち合わせをしても、コメンテーターが予定にない発言をすることはあります。

そこで問われるのは、「絶対に間違いを起こさないこと」だけではなく、間違いが起きたときに番組がどう対応するかではないでしょうか。

今回については、少なくとも誤った表現を放置して番組を進めたわけではありません。

そう考えると、「訂正しただけでは許されない」と際限なく責任を求めることにも慎重になった方がよいと思います。

「訂正したから終わり」でよいのかは別問題

テレビ局側が「直後に訂正しました」で完全に終わらせてよいのかについては議論の余地があります。

現在は、テレビ番組の一部分が簡単に切り抜かれます。

実際、今回も「北方領土はロシアが領有されている」という加藤さんの発言部分がSNSで広がりました。

本放送を最初から最後まで見ていた人なら、その直後に訂正されたことも分かります。

しかし、切り抜きだけを見た人には届かない可能性があります。

テレビ局が放送中に訂正すれば完結していた時代とは、情報環境が変わっているのです。

誤った発言がSNSで大きく拡散されたのであれば、番組公式サイトやSNSでも「番組内でこの発言がありましたが、正しくはこちらです」と明確に残しておく。

そこまで含めて現在の訂正のあり方なのかもしれません。

コメンテーターはどこまで専門知識を求められるのか

今回もう一つ考えたいのが、報道番組に出演するコメンテーターの存在です。

加藤さんは歌手であり、北方領土問題の専門家ではありません。

もちろん、専門家でなければ政治や国際問題について発言してはいけないわけではないでしょう。

報道番組には専門家だけでなく、文化人や芸能人などさまざまな立場の人が出演し、一般の視聴者に近い視点から意見を述べる。それもテレビの特徴です。

ただし、「私はこう思う」という意見と、事実関係の説明は別です。

「領土より平和を求めるべきだ」という部分は加藤さんの意見として成立します。

しかし、その前提として「北方領土はロシアが領有している」と説明してしまえば、意見以前の部分で問題が生じます。

専門家ではない出演者だからこそ、番組側が事実関係を支える必要があります。

『サンデーモーニング』だから批判が大きくなった面もある

今回の炎上には、『サンデーモーニング』という番組が以前から厳しい目で見られていることも影響しているように感じます。

同番組では過去にも出演者の発言や事実関係をめぐって問題が起きています。

2021年には張本勲さんの女子ボクシングに関する発言について日本ボクシング連盟から抗議を受け、TBSが謝罪しました。

2023年にはイスラエル・ハマス戦争に関連する画像を「生成AIで作られたフェイク画像」と断定的に紹介したものの、根拠が十分ではなかったとして訂正・謝罪しています。この件ではBPO放送倫理検証委員会からも、基本的なチェックが行われず事実と異なる内容を放送した点について厳しい意見が示されました。

過去の積み重ねがあるため、今回も「またサンモニか」と受け止めた人がいたのでしょう。

ただ、過去に問題があったことと、今回の対応が適切だったかどうかは分けて評価した方がよいと思います。

番組への好き嫌いから先に結論を決めてしまえば、それもまた公平な見方ではありません。

報道番組に必要なのは「間違えないこと」だけではない

報道番組で事実関係を間違えることは、できる限り避けなければなりません。

特に領土や外交、戦争に関する問題は、一つの言葉によって意味が大きく変わります。

ただ、生放送である以上、出演者による言い間違いや認識違いを完全になくすことも現実的ではありません。

それならば、「間違いが一度でもあれば失格」と考えるより、訂正する仕組みまで含めて報道の信頼性を評価した方がよいのではないでしょうか。

今回の『サンデーモーニング』では、誤った表現に対して直後にアナウンサーが訂正しました。ここは評価してよいと思います。

そのうえで、SNSによって誤った部分だけが切り抜かれる現在では、放送中の一度の訂正だけでは情報が追いつかない可能性もあります。

テレビ局には「放送したら終わり」ではなく、放送後に情報がどう広がっているかまで見ながら訂正を届ける仕組みが必要になっているのでしょう。